「豊臣秀吉」という名前を聞くと、多くの人は戦国時代を終わらせ、天下統一を成し遂げた偉大な武将を思い浮かべるであろう。農民出身から天下人へと成り上がった、そのストーリーは何度もドラマ化や映画化され、「サクセスストーリー」の代表例として語り継がれている。しかし、そんな華々しい経歴の一方で、しばしば話題になるのが「豊臣秀吉の身長」に関するうわさだ。「秀吉は小柄だった」「実はそこまで低くなかった」「甲冑(かっちゅう)のサイズで逆算できる」…などなど、歴史ファンの間ではいまだに議論の尽きないテーマである。
本記事では、「豊臣秀吉の身長は実際にはどのくらいだったのか？」という疑問に焦点を当て、歴史的資料や最新の研究をもとに詳しく解説する。さらに、当時の日本人の平均身長や社会背景、秀吉の身体的特徴がどのように評価されてきたのかについても触れ、深い理解を目指す。最後まで読めば「豊臣秀吉の身長」に関するモヤモヤが一気に解決すること間違いなしである。豊臣秀吉のイメージをより立体的に把握することで、戦国時代の歴史や人物像への興味もきっと増すだろう。
豊臣秀吉の身長の定説と有力説
豊臣秀吉の身長は「150cm～155cm」説が有力
現在の研究や多くの歴史ファンの間で最も支持されている「豊臣秀吉の身長」に関する有力説は、150cmから155cm前後ではないかというものである。戦国時代の成人男性の平均身長は、諸説あるが150cm台半ばから160cmほどと推定されている。そう考えると、秀吉が特別低かったというよりは、当時の平均か、やや低い程度だった可能性が高い。
とはいえ、たとえば「170cmぐらいあった」という大胆な説がゼロではない点も面白い。こうした異説は主に「秀吉が実際に着用したとされる甲冑」や「残された肖像画の印象」などから導き出されるが、歴史資料の解釈や保存状態、後世の誇張などが絡み合い、実ははっきりと断定しにくいところもある。
なぜ「150～155cm」説が広まっているのか
・複数の古文書において「小柄」と記述される
・武将としては珍しい「猿」というあだ名がついていた
・残された甲冑のサイズや書状でのエピソードなど総合的に推測される
このように、さまざまな間接的資料を総合すると「150～155cm」というイメージが定着している。もっとも「小柄」という言葉が現在と同じ感覚で使われていたのかは疑問が残るし、「猿」と呼ばれたからといって必ずしも身長が低いわけではない。後述のように、秀吉の愛嬌や機敏さを揶揄(やゆ)するニックネームだった可能性もある。
小柄のイメージはなぜ広まった？
秀吉の愛嬌とギャップ
豊臣秀吉は織田信長や徳川家康と比べると、「人情味がある」「自ら庶民に交じって祭りに参加する」「大衆受けする施策を打ち出す」といったイメージで語られることが多い。こうした庶民的な雰囲気と、小柄であるというイメージは妙に相性が良い。人々が抱く秀吉像を語るときに、「小柄だけど出世欲に燃える快活な人物」というわかりやすいキャラクター付けがなされたのだろう。
後世の創作や劇画化の影響
時代劇や小説、マンガ、さらにはゲームなどで、「秀吉は小柄で機敏」という描写が繰り返されてきたことも大きな要因だと思われる。たとえばドラマや演劇では、役者の体格や演出の都合で「小柄でよく動く秀吉」という表現が視聴者に強く焼き付く。後世の創作やフィクションの影響によって、実際の史実よりもさらに小柄な印象が強調されている可能性は十分ある。
「低身長＝出世」のストーリー
「豊臣秀吉の身長」が低いと語られるのは、サクセスストーリーとしてもインパクトがある。「もともと低い身分(農民)かつ小柄だった人物が知略と運で天下人になる」という対比構造は、物語性を高める格好の材料である。こうした面白おかしい演出が、さらに「秀吉は小柄であった」というイメージを広める一因になったとも考えられる。
当時の平均身長との比較
戦国時代の平均身長はどのくらい？
歴史的資料や人骨の調査から推測される戦国時代の成人男性の平均身長は、約155cm～160cmが一般的な推定値である。江戸時代に入ってからも日本人の平均身長はなかなか伸びず、近代以降の栄養状況の改善でようやく急激に伸び始めたという流れだ。
地域差・食生活の影響
当時は地域による食生活の違いが大きく、米の産地や魚の豊富な地域では栄養状態がやや良かったとされる。が、それでも現代ほどの高タンパク質な食事は望めず、身長の伸びは限られていた。もし豊臣秀吉が織田家に仕えていた若い頃、十分な栄養を摂れていなかったとすれば、成長期に伸び切らなかった可能性も考えられる。
秀吉は本当に「特別小柄」だったのか？
前述の通り、「豊臣秀吉の身長」が150cm前後であったとすると、当時の平均身長と大差ない。むしろ同時代の他の武将たちと比べても、そこまで極端に小柄であったとは言い難い。よく比較対象として挙げられる織田信長は、現代の推定で170cm近くあったという説もあるが、これも史料によってバラバラだ。いずれにしても「秀吉だけが際立って低かった」というわけではないという点は押さえておきたい。
身体的特徴から探る秀吉像
「歯が真っ黒」だった？ 当時の習慣
戦国時代には「お歯黒」という風習があった。これは既婚女性だけでなく、身分の高い男性が歯を黒く染める習慣もあったのである。豊臣秀吉も公家化が進んでいく中で、歯を黒く染めていた可能性は高い。歯が黒いと、その分小さな口元が印象的に見えて、さらに小柄なイメージを与えたのかもしれない。もっとも、実際の顔立ちがどうであったかを推測するのは難しいが、肖像画や伝えられる容貌(ようぼう)の特徴から、小柄で細身、肌は浅黒く、猿に例えられるほど機敏だったというイメージが定着している。
秀吉の肖像画：小柄に描かれている？
秀吉を描いたとされる肖像画や屏風絵はいくつか現存しているが、それらは往々にして「小柄で痩せ気味の体形」に描かれることが多い。ただし、肖像画や絵巻物は当時の芸術表現の影響や、注文主の政治的・美学的意図などが反映される可能性がある。よって、必ずしも写実的とは言えない。あくまでも「当時の平均か、やや小柄」というのが現実的な見解だろう。
史料に見る豊臣秀吉の身長
古文書からの推察
具体的に「豊臣秀吉の身長」を記載した史料は極めて少ない。一般に戦国時代の史料は身長や体重といった身体的データを詳細に残していない場合が多い。後世の軍記物や二次史料で「小さな男だった」と書かれていたとしても、それは時代を経た脚色である可能性が高い。
甲冑の寸法
秀吉が所有していたとされる甲冑の一部が各地の博物館・神社などに所蔵されている。しかし、これらは改造や修復が施されているケースが多く、当時のオリジナルのサイズが正確に反映されているとは限らない。また、甲冑にはある程度の調整余地があるし、儀礼用の豪華な甲冑などは実用とは異なる寸法で作られることもあった。したがって、甲冑だけで「秀吉の身長」を厳密に割り出すのは難しい。
書状における自称
豊臣秀吉が「自分は小人である」などと書状で言及しているという説もあるが、多くは後世の文献の引用であり、原本が残っているわけではない。仮にそのような記述があったとしても、戦国大名がへりくだって自分を卑下する表現を使うのは常套手段であるから、額面どおりに「身長が低い」と結論づけるのは早計だろう。
「猿」と呼ばれた理由と身長の関係
「猿＝小柄」は本当か？
豊臣秀吉は若い頃、「木下藤吉郎」あるいは「羽柴秀吉」と名乗っていた時代から、織田信長や周囲の人々から「猿」と呼ばれていたと言われる。確かに一般的に猿というと、小柄で細身というイメージがある。しかし、それが直接「豊臣秀吉の身長」が低かったことを示すわけではない。
どちらかといえば「機敏・愛嬌」が理由か
むしろ「猿」と呼ばれた背景には、秀吉の機敏さや愛嬌、活発で馴れ馴れしい話し方などが影響していると考えられている。織田信長は目上に対しても失礼なほどフレンドリーに接してくる秀吉をからかう意味で、「猿め」などと呼んでいた可能性もある。また、猿のように腕が長かったとか、顔立ちが猿っぽかったなどの伝承もあるが、いずれも定かではない。しかし、この愛称が「小柄」のイメージを強めたことは確かだろう。
豊臣秀吉と甲冑のサイズ
大坂城天守閣に所蔵される甲冑
大坂城天守閣や各地の博物館に、秀吉が使用したと伝わる甲冑が展示されていることがある。例えば「黄金の茶室」を連想させるような金箔押しの豪華な甲冑は観光客の目を引く。しかし、繰り返しになるが保存状態や修復過程、儀礼用か実用用かによってサイズが変わるため、そこから実寸を割り出すのは難しい。
甲冑の調整範囲
当時の甲冑は、身体にぴったり合わせて作られるだけではなく、多少のマージンを設けて調整できる余地があった。例えるなら、スーツをオーダーメイドしても体型に変化があれば仕立て直しが可能なように、甲冑もパーツごとに紐でつなぐ構造のため、ある程度の調整がきく。よって、一見すると「小さめサイズ」に見える甲冑でも、実際には取り回しができるよう工夫されている場合がある。さらに秀吉は晩年になるほど富と権力を得て、儀礼的な甲冑を複数所持していた可能性も高い。
海外の史料に見る秀吉像
ポルトガルやスペイン宣教師の手記
戦国時代後期にはヨーロッパの宣教師や商人が日本を訪れており、彼らが残した手記には当時の武将たちについて言及した部分がある。しかし、豊臣秀吉の身長に関して直接的な数字を示すものは少ない。また、宣教師たちは西洋人の感覚から「日本人は総じて背が低い」という印象を持っていた場合が多い。「小柄」「子どもみたいだ」などの記述を現代の数値に変換するのは不可能に近い。
海外から見た戦国武将
イエズス会などの記録には織田信長や豊臣秀吉、徳川家康といった有力大名の性格や政策への評価は比較的詳細に残っているものの、身長について正確な数字が書かれていることはまずない。仮に「短躯(たんく)」などの表現があったとしても、それは主観的評価に過ぎず、具体的な身長を測ったわけではない。よって、海外史料を頼りにする場合も、「豊臣秀吉の身長」を確定する証拠にはならないのが現実だ。
豊臣秀吉の身長を巡る諸説まとめ
ここまで見てきたように、「豊臣秀吉の身長」については多くの説が存在する。一般的には150～155cm程度が有力とされているが、具体的な史料が少ないため、確たる数値を断定するのは困難である。まとめると、以下のようなポイントが挙げられる。
- 150～155cm説が最有力
戦国時代の平均身長や伝承を考慮すると、妥当な範囲といえる。 - 小柄イメージは後世の創作や演出による誇張がある可能性
戦国武将としては決して突拍子もなく小さいわけではなく、当時の平均前後という見方が多い。 - 実測データは存在せず、甲冑のサイズや肖像画、軍記物などからの間接推定
ただし甲冑は修復や儀礼用の可能性があり、肖像画も写実性に難がある。 - 「猿」というあだ名は身長よりも機敏さや愛嬌に由来？
織田信長が秀吉をからかっていたという説や、性格を表すニックネームという説が有力である。 - 他の武将と比較しても極端に低かったわけではない
織田信長の長身説や、徳川家康の体格についても諸説あり、どれも確定的とは言えない。
まとめ：豊臣秀吉の身長が教えてくれるもの
「豊臣秀吉の身長」が高かったのか低かったのか――その答えは正直なところ、はっきりしない。しかし、おおむね150～155cm前後と推測されるのが現在の主流だ。当時の基準で言えば平均的か、少し低いくらい。いずれにしても「農民から天下人に成り上がった男」という物語と相まって、「小柄な男が知恵と運、そして時代の流れを味方につけて頂点まで上り詰めた」というイメージは、多くの人を魅了するに十分な説得力を持っている。
また、「猿」のあだ名や小柄説を通じて見えてくるのは、秀吉が周囲に愛嬌を振りまきながら人心掌握をしていたという人間力である。背丈がどうであれ、周囲を巻き込み人を動かすリーダーシップと行動力を発揮した。その姿は現代にも通じるリーダー像の一つかもしれない。
仮に現代人と比べて小柄であったとしても、豊臣秀吉が日本の歴史を大きく変えた事実に変わりはない。むしろ、その「物理的な小ささ」を補うほどのカリスマと器量があったということだろう。「豊臣秀吉の身長」を考察することは、秀吉の人物像や戦国時代の社会背景をより深く理解する絶好のきっかけとなる。興味を持った方は、ぜひ関連資料や学説を掘り下げてみてほしい。
