「滝沢馬琴」と「曲亭馬琴」。二つ並ぶと別人みたいに見えるが、実は『南総里見八犬伝』などで知られる同じ作家を指す呼び名だ。けれど、教科書・辞典・展示・ネット記事で表記がバラつき、どっちが正しいのか不安になりやすい。
結論はシンプルで、滝沢は姓(本姓)側、曲亭は号(ペンネーム)側だ。つまり「滝沢=家の名」「曲亭=作家名」という役割の違いになる。ただし馬琴本人は、姓と戯号をつないだ呼び方を嫌った時期がある、とも伝えられる。
さらに、辞典や図書館目録では「典拠」をそろえるために別の形で登録され、出版物の表紙や解説とは表示が食い違うことがある。これが「同じ人なのに別名だらけ」に見える大きな理由だ。
この記事では、本名・通称・号を混ぜずに整理し、なぜ表記が揺れるのかを順番にほどく。若い頃の名乗り方や、本人がこだわった呼び名の事情にも触れる。最後に、レポートやブログで迷わない無難な表記例も示す。
滝沢馬琴と曲亭馬琴の違い:まず押さえる基礎
同一人物で、名の種類が違うだけ
「滝沢馬琴」と「曲亭馬琴」は、どちらも江戸後期の読本作者を指す。同一人物だと押さえるのが出発点になる。代表作は『椿説弓張月』『南総里見八犬伝』などだ。
違いは、前に付く部分の役割だ。滝沢は本姓(家の姓)で、曲亭は号(作家としての名乗り)だと説明される。だから「滝沢=家の名」「曲亭=作家名」という整理になる。
辞典では「曲亭馬琴」の項で「本姓は滝沢、名は興邦」といった形でまとめられることが多い。一方で、姓と号の一部を合わせて「滝沢馬琴」と呼ぶ資料もあり、見た目が二重になって混乱しやすい。
まずは「二つの表記=一人の作家」と頭に置けば、読み進めやすくなる。ここから先は、なぜ二つが並立したのかを順にほどいていく。
本名・通称・号を混ぜないで整理する
馬琴の本名は滝沢興邦(おきくに)で、のちに解(とく)に改めたとされる。ここは辞典や解説で共通して示される中心情報だ。
一方、家や日常での呼び名として、通称がいくつか伝わる。たとえば左吉や清右衛門などが挙げられ、資料によって表記や位置づけが異なることもある。
作家としての号は「曲亭馬琴」が最も有名だが、著作堂主人、蓑笠漁隠など別号も多い。蔵書印の解説でも、多数の名がまとめて紹介されている。
混乱を避けるコツは、「滝沢=姓」「興邦/解=名」「曲亭馬琴=号」と棚を分けることだ。区分ができれば、作品解説を読んでも引っかかりにくくなる。呼び名の立場が見えるからだ。
本人は「滝沢馬琴」をどう扱ったのか
よく「本人は滝沢馬琴と名乗らなかった」と言われるが、近年の解説では、若い頃に「滝沢馬琴」と用いた例が確認できると紹介されている。つまり“ゼロだった”とは言い切れない。
ただし、その後に「曲亭馬琴」を戯作の号として本格的に用いるようになってからは、本姓の滝沢と戯号の馬琴を組み合わせる呼称を強く嫌った、と説明される。手紙などで不満を述べた、という指摘もある。
だから現在は、人物名としては「曲亭馬琴」を基本にし、必要なら「一般には滝沢馬琴とも呼ばれる」と補うのが無難だ。本人の意向と通用度の両方を立てられる。
滝沢馬琴と曲亭馬琴の違い:表記の揺れと使い分け
目録や辞典で表記が揺れる理由
図書館のデータでは、表紙に書かれた作者名と、統一した標目(典拠)が別に管理されることがある。たとえばある版の『南総里見八犬伝』では「滝沢馬琴 著」としつつ、著者標目は「曲亭馬琴」と登録されている。
これは「同じ人物を一つの名前にまとめる」ための仕組みだ。別号や別表記が多い人物ほど、標目で寄せないと資料が分散してしまう。馬琴についても、複数の表記が参照として並ぶ。
つまり、目録の表示が揺れるのはミスというより、運用の違いで起きることが多い。作品の欄は出版時の表示、標目は統一名、と役割が違うと理解すると納得しやすい。
この仕組みを知っていれば、どちらの表記で出会っても同じ作者に到達できる。名前の揺れに振り回されず、作品そのものに集中できる。
文章ではどちらを使うのが無難か
結論だけ言うなら、人物名としては「曲亭馬琴」を基本にするのが無難だ。本人が姓+戯号の結合を嫌った、という説明があるため、意向を尊重した形になりやすい。
一方で「滝沢馬琴」は、後世に広まった表記で、本名側と筆名側がつなぎ合わされたものだ、と解説されることがある。だから厳密さを求める文章ほど避けられがちだ。
ただし、若い頃に「滝沢馬琴」を用いた例が紹介されており、当時からそう呼ばれることもあった、とも説明される。白黒で断じず、歴史的事情があると捉えるのが安全だ。
実用面では、初出で「曲亭馬琴(一般には滝沢馬琴とも呼ばれる)」と添え、以後は曲亭馬琴に統一するのが読みやすい。引用や注記でも表記を揃えると誤解が減る。読者の目線も迷いにくい。
代表作とセットで覚える近道
馬琴の代表作は『椿説弓張月』や『南総里見八犬伝』で、人物紹介でもこの二つが軸になることが多い。作品名と作者名をセットで覚えると、表記が揺れても迷いにくい。
実際、目録では『南総里見八犬伝』の著者表示が「滝沢馬琴」となっている版があり、同時に著者標目は「曲亭馬琴」と示される。どちらで見ても同じ人物に行き着く設計だ。
海外の典拠でも、Kyokutei Bakinに対してTakizawa Bakinが併記され、同一人物として束ねられている。日本語表記が複数あっても、統一管理で同一性が保たれているわけだ。
だから暗記のコツは、「曲亭馬琴=八犬伝の作者」と一つ芯を作ることだ。芯があれば、「滝沢馬琴」を見てもすぐ同じ人だと戻れる。作品名が添えられていれば、なお安心だ。
まとめ
- 両者は別人ではなく、同一人物を指す呼び名だ。
- 滝沢は本姓、曲亭は号で、名の種類が違うだけだ。
- 本名は滝沢興邦で、のちに解(とく)に改めたとされる。
- 通称や別号が多く、資料によって表記が増える。
- 若い頃に「滝沢馬琴」を用いた例があると紹介される。
- その後は姓+戯号の結合を嫌った、という説明がある。
- 人物名としては「曲亭馬琴」を基本にするのが無難だ。
- 目録では著者表示と著者標目が分かれ、揺れが起きやすい。
- 『八犬伝』など代表作とセットで覚えると混乱しにくい。
- 初出で併記し、以後は表記を統一すると文章が読みやすい。




