川端康成

結論:『古都』は、京都の四季の中で生き別れた双子の姉妹の再会と別れを描く、川端康成の新聞連載小説

『古都』は、川端康成が1961年(昭和36年)10月8日から1962年1月23日まで、『朝日新聞』に全107回で連載した長編小説です。主人公は、京都の老舗呉服問屋に育った20歳の千重子。自分は捨て子ではないかという悩みを抱える彼女が、北山杉の村で暮らす自分そっくりの娘・苗子と出会い、二人が双子の姉妹だとわかります。

物語は、桜、北山杉、祇園祭、時代祭といった京都の季節の行事を背景に進み、冬の雪の朝、苗子が山の村へ帰っていく場面で終わります。

この記事では、あらすじと登場人物、執筆の事情、作品がどう評価されてきたかを整理します。

基本情報

  • 作者:川端康成(1899年〈明治32年〉6月14日〜1972年〈昭和47年〉4月16日)
  • 時代:昭和時代。作中で描かれるのは1961年の京都
  • 初出:『朝日新聞』1961年10月8日〜1962年1月23日、全107回(挿絵は小磯良平)
  • 単行本:新潮社、1962年6月25日刊。口絵は東山魁夷「冬の花」
  • 文庫:新潮文庫、1968年8月27日刊(2010年に改版)
  • 構成:全9章。京都の春夏秋冬を背景にする
  • 川端は1968年に日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した。『古都』はその授賞対象作の一つとされる

古都のあらすじと登場人物|千重子と苗子の物語

主な登場人物

  • 佐田千重子:京都・中京の呉服問屋の一人娘。20歳。実は捨て子
  • 苗子:千重子の双子の姉妹。20歳。北山杉の村で暮らす山娘
  • 佐田太吉郎・しげ:千重子の育ての父母
  • 大友秀男:西陣織の職人。千重子に想いを寄せる
  • 水木真一:千重子の幼なじみ
  • 水木竜助:大問屋の長男。千重子を想う
  • 真砂子:千重子の友人

北山杉の村での出会いと祇園祭の夜

千重子は、自分が捨て子ではないかという思いを胸の奥にしまって暮らしています。5月、友人の真砂子と北山杉を見に出かけた千重子は、そこで働く村娘の苗子が自分にそっくりなことに気づきます。

二人が出会うのは、祇園祭の夜、八坂神社の御旅所でのことです。この場面で、二人が双子の姉妹であることがわかります。千重子は、育ての親に拾われた子であり、苗子は山の村で育った実の姉妹だったことになります。

秀男の取り違えと佐田家の事情

西陣織の職人・秀男は、千重子を好いていながら、苗子を千重子と間違えてしまいます。のちに秀男は苗子に惹かれていき、結婚を申し込みますが、苗子は身分の違いを思って断ろうとします。

一方の佐田家は家業が傾いており、水木家から竜助を婿養子に迎える話が持ち上がります。恋の行方、家の存続、血のつながりという三つの糸が、千重子と苗子の上で絡み合います。

雪の夜と結末

冬の夜、苗子は千重子の家を訪ね、姉妹は一晩を共に過ごします。苗子はこれを一度きりの訪問と決めており、雪の朝、山の村へ帰っていきます。再会の喜びよりも、別々の暮らしへ戻るほかない現実が、静かに残る終わり方です。

古都の背景と読みどころ|執筆の事情・評価・映像化

睡眠薬と『古都』の執筆

川端は京都市左京区下鴨の借家で『古都』を書きました。「あとがき」では、執筆中に睡眠薬を常用していたことを振り返っています。連載の終了後に服薬をやめようとすると禁断症状が出て、1962年2月から東京大学医学部附属病院に入院しました。新聞連載という毎日の締め切りの中で書かれた作品だったことが、ここからうかがえます。

単行本化での手直し

連載を単行本にまとめる際には、会話の京都弁を協力者の助けで直すなど、加筆と補正が行われました。1970年の『川端康成全集』第12巻に収める際には、仮名遣いと漢字を歴史的仮名遣い・正字体に戻し、送り仮名も改めています。同じ作品でも、版によって表記が違うのはこのためです。

海外での評価と翻訳

『古都』は、国内よりも海外での評価が高いとされます。翻訳は、ドイツ語(1965年)、中国語(1969年、台北)、イタリア語(1968年)、フランス語(1971年)、英語(1987年)などで出版されました。英語版の題は『The Old Capital』です。

研究では、失われゆく日本の美を残そうとした作者の意図から論じられることが多いといいます。1968年のノーベル文学賞の受賞理由は、「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現、世界の人々に深い感銘を与えたため」とされています。

舞台・映画・ドラマ

単行本の出た1962年には、新派が明治座で舞台化しました(脚色は川口松太郎)。映画は、1963年に松竹が中村登監督で、1980年に市川崑監督で製作され、2016年には現代に翻案した版も作られています。テレビドラマも、NHK(1964年)、フジテレビ(1966年)、TBS(1980年)、関西テレビ(1988年)、テレビ東京(1994年)、テレビ朝日(2005年)などで放送されました。

ゆかりの地と関連する人物

作品に登場する京都の場所

  • 平安神宮:作中に桜の場面が登場する
  • 北山杉の村:苗子が暮らす場所。千重子が苗子と出会う
  • 八坂神社:祇園祭の夜に、二人が言葉を交わす
  • 時代祭:京都の行事として作中に登場する
  • 京都市左京区下鴨:川端が借家で執筆した

関連する人物

  • 小磯良平:新聞連載の挿絵を担当した
  • 東山魁夷:単行本の口絵「冬の花」を描いた
  • 川口松太郎:1962年の舞台化で脚色を担当した

川端は、『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』なども代表作とされます。1972年4月16日の夜、神奈川県逗子市で自ら命を絶ったとされ、遺書はなかったと伝えられています。

よくある質問

『古都』はいつ、どこに連載された?

1961年10月8日から1962年1月23日まで、『朝日新聞』に全107回で連載されました。単行本は1962年6月に新潮社から出ています。

千重子と苗子は双子なの?

はい。祇園祭の夜に二人が出会い、双子の姉妹だとわかります。千重子は呉服問屋の育ての親に、苗子は北山杉の村で育ちました。

『古都』はノーベル賞と関係がある?

川端康成は1968年に日本人初のノーベル文学賞を受賞し、『古都』はその授賞対象作の一つとされています。

映画化されている?

1963年の松竹版、1980年の東宝版、2016年版があります。ほかに舞台化やテレビドラマ化も繰り返し行われています。